2018/12/28
「私も予言者などと言うならプロメテウスの運命に会うだろうな。覚悟の上でプロメテウスは人間に火を与えたが(ヘラクレスの時代が来る。大神の没落も先見していた)毎夜島にハラワタをエグられた時は泣き叫んだと言う。オレのハラワタは恐らく最も親しい者がエグるだろう。恒幸もエグるよ。予言しといてやるぜ。しかし誰一人犠牲(イケニエ)で命を失なったとか手足をもがれたとか言う悲惨な事件なしで最高の犠牲を払うにはその方法しかなさそうだから神様にそう祈っておくよ。それでもし私がツブれずに生き残っていたら、ちょっとした大教師になってるだろうぜ」
前半は当たった。すると後半も当る?
那賀島は早速、生れたての息子に「ヘラクレス」とかアダ名をつけていたが、ヘラクレスとは誰だろう?
那賀島がエグるのは判っていたが、太城君が夢中でエグリまくったのは予想外だった。
「賞金王になったら、まっ先にボクの所へ電話して来たよ。エライとホメてやったよ。次はマスターズ遠征だ。全英オープンへ出るかどうかは彼と奥さんとボクとの三者会議次第だ」
「そう言って誰にホラを吹いてもいいが、オレに向かってそこまで言わさすなよ」恒幸にそう言ってやったが、“太城先生には歯を治してもらってるから後藤さんはアタマが上がらない”と読んだ恒幸は、太城君を私(騎馬)の“鞍”か“天敵”役をやらす作戦だった。40年来の友が1年来の親友の為にその役をやった。
だが「50才で折り返す。そこまでは充分エグらせる」と決心していた私も50才になった。ドラマのページをめくらなくてはいけない。
歯の治療は五年たってもまだ終わってないが、ついに私は太城君をドナリつけた。50すぎて“偽りの友情”でもなかろう。太城君がハッと目覚めれば、彼は初体験でテングになったがで、一皮むけた紳士、親友、名医の道を進めばいい。あくまで「ボクがアドバイスする」と言い張るなら私は彼と決別し、“所せん、プロはアマとつき合っちゃイカン”と結論する。そして折あらば紙上で彼に復讐しよう。攻め殺そう。別にムキになってその問題ばかり書かないが。
恒幸はどうなる?彼は恐らく私と太城君をケンカ両成敗にしようと狙うだろう。
例えば君が恒幸に「オマエ、後藤さんを追い出して町医者を参謀長にしてるそうだなア」と言ったとする。恒幸が「文句ありますか。ボクの参謀長に」と答えるならいい。
しかし、彼はそうは答えない。「ただの歯医者ですよ。どシロウトですよ。参謀長なんかじゃありませんよ」と答えると見る。太城君がノーベル賞級の医学者とか国立病院の院長とかなら判らん。しかし那賀島は“体面”が気になる。だからその時彼は太城君を斬る。八方美人的にカゲでつき合うだろうが。
30の若者に50男が二人並べて“両成敗”にされるハメになってしまった。最初から私はそれを恐れていた。プロがアマと重ねて斬られたではプロの恥辱だろう。
「オレはジプシーだぜ。恒幸や太城君に起る天罰を全部私に回せと神に祈ってはあるが最後には居直るぜ。それで太城夫妻が命をおとす様なハメにまで持って行くなよ。オレがその時は恒幸に復讐するぜ」と四、五年前に予見して言っておいた。
だが恒幸も太城君も賞金王になってから私を笑い飛ばそうとした。そこで私は前言を訂正し、「ケンカ両成敗をやったら復讐するぜ」と言い直した。この先にどんな成行きが待っているか見モノだろう。
“困ったときの神頼み”だが賞金王を取ったあとは、シヤブって捨てられるのが私か?“そうされそうになる”―とは最初から読んでいたが。
私には「それで終らない」「そうはさせない」強い悪運(荒運)?があるだろうと読み、それを信頼してみた。多分私に負けないと読んだ。負けたと見えても私にはペンがあるからその物語を書ける。すると私に“負けがない”ことになる。
「負けのない男と戦うな。ハラワタをエグっても前よりいい内臓が復元しちゃう人間と戦うな。巨人ガイアは地面へたたきつけられる度に前より大きくなって立ち上がったと言うが、負けのない者と戦うと運が悪くなるぞ」
・・・続く